春の夜風

 春の夜風が好き。

 開け放した窓からふうわりと風が入り込んでくる。冷たくさっぱりとした風が。陽光に温められた優しい風とは異なり、きりっと冷えた風が。

 気がつけばすぐに寝苦しい夜がやってくるだろう。むわっとした熱帯夜の空気は嫌いではないが、春の夜風を感じる時間は短いのだ。その儚さの点で他の季節のあらゆる風を凌駕する、気がする。「また来年」なんて考えない。ただその瞬間の風の感触を楽しみに。(そもそももう一年生きるなんてことはうんざりすることで、考えたくないことだ。しかし死を望んでいるわけでもないというのが厄介。先のことを考えるのがただ嫌なだけ。)

 春は風が吹く季節らしい。言語化するのはもしかしたら初めてのことかもしれない。