ジャグリング

 ジャグリング

 ジョギングをした後にスーパーに立ち寄る。

 緑茶の伊右衛門と炭酸のキリンレモンとカルピスの原液を買う。買い物するつもりはなかったからエコバッグを持ち合わせておらず(平生でも私はついついエコバッグ代わりの薄いトートバッグを持ち歩くのを忘れてしまう)500mlのペットボトルを3本、両手の指に挟んで持って帰るという有様になってしまった。これは実際に以前あった話で、同じように大根一本と卵1パックを手に持って帰ったことがあった。それとどちらがマシだろうか。正直変わらないと思う。面白さなら大根&卵の勝ちだ。

 指に挟む形で私に運ばれるペットボトルたちを眺める。なんだかジャグリングのよう。カルピスの原液を宙に放り投げてみようか。きっとくるくると綺麗に回るだろう。うまくキャッチできるかな。カルピスの美味しさは変わってしまうだろうか、云々。宙への誘惑をキリンレモンが押しとどめる。炭酸は美味しく飲めた方がいい。そして安全に。代わりに私は自分が近くの公園の芝生の上に立っているところを想像する。わざわざジャグリング用の、ボーリングのピンのような「あれ」を私は買い揃え、一から練習をするのだ(調べたのだが、ボーリングのピンのような「あれ」は「クラブ」というらしい。また一つ知識を得る)。

 芝生の草いきれを感じながら、私は3本のクラブを持っている。右手でえいやっと1本目のクラブを投げ、それが弧を描き切る前に2本目を投げる。3本目は1本目をキャッチしたと同時に反対の手で投げればいいのだろうか。うんうん。イメージはなんとなくわかった。私はきっと何度も何度も失敗して、クラブを芝の上に落とすだろう。そのたびに体を前に倒しやれやれと拾い上げる。そうしてまた宙を見上げクラブを放り投げる。練習というのはそういうものだ。

 私は最近何かを始めたことがあっただろうか。練習をしているか。

 実はしている。独和辞典があるばかりに、ドイツ語のテキストを買い、ちまちま勉強を始めて7日ぐらいなのだ。Magenは「胃」を意味する。貪欲な胃であれ。クラブを放り投げろ。完成の青写真を夢想していたら、いつまで経っても終わらない気がしてきた。家に帰ったら買ったばかりの原液の封を早速あけ、カルピス片手にテキストとノートを開く。何度もクラブを放り投げることをイメージする。