雨に歌う

 折りたたみ傘を使いたいことに加え、そもそもこの時間にこのエリアを歩ける機会もあまりないので1時間ほど歩く。

 車が走っている。街灯の灯りがある。コンクリートの建物もたくさんある。「人間」だけがいない。それを「歓び」と思えてしまうぐらいには人間のことが嫌いだと言うのは、やっぱりダサいよなと思う。どうしたらいいのだろう。とりあえず歩かないと帰ることができないから帰ろう。

 

 ちょっとした山の中を散策するときと同じ印象を受ける。今、私が歩くこの時間に限り、このまちにとって人間は「部外者」になる。人間はまちにとっての餌だ。

 部外者として歩くのは気が引き締まる。感覚が研ぎ澄まされる感覚がする。

 

 イルミネーションのように、いや、イルミネーションが街々の灯りを模倣している。夜の街の灯りはいつだって綺麗。

 

 有明コロシアム。この辺りはずっとどこかで工事している。

 

 フェンス越しの有明アリーナ、暗黒カレーパンかな。フォルムがどことなくカレーパン。ちょっと厚めのランチパックにも見える。ハハハハと声に出して一人笑いながら、なおも歩く。通行人がいないのをいいことに「猟奇的なキスを私にして」を歌う。言葉が染みこんでくる。雨粒が川面を強く叩いているのが見えた。白い光がゆらゆらと揺れている。至福のひととき。

 

 買った傘は予想以上に使い勝手が良い。一方でスニーカーは少しだけ浸水した。