二子玉川・橋・遺言

 川が好きなので川へ。

 

 川はいいですな。

 

 橋も好きだということに最近気づくわけだが、橋があるところには好きな川があることがひとつ、もうひとつは橋は両岸に架かる中立地帯であり、どこにも属さないけれど両岸がなければ成立しえない矛盾めいたところがいい。「渡る」という行為に付随するある種の達成感も好きだ。多摩川を渡って、もう一度引き返すというのをやった。暑い。

 

 二子玉川。駅前にショッピングモール的なものがある。でも入っているコンテンツ(=店)は大都市の駅前にある建物に入っているものと大差ない、と思わせるのが良くない。本当はその場所にしかないお店もあるのだけれど、全国に展開するお店も入っていることで、どうもありがたみが薄れる。良くない。そこらへんの機微をこちらも篩い分ける必要があるのだけれど、正直面倒だ。が、今後はもうちょっと細かく見ていこうと思う。LOFTがあり無印がありABCマートがありスターバックスがあった記憶が先行する。その陰に隠れるローカル性。

 目的は「END展 死から問うあなたの人生の物語」を観に行くこと。

 展示内をめぐりながら、私は切り取るということについて考えていた。その企画展で登場する漫画の中には読んだことがあるものもあったのだが、家でゴロゴロ寝転んで読んでいるのとでは全く異なる読書感覚(企画展では1コマがバシッと展示されているので「読書体験」ではないのかもしれない)同じものを読んでいる(読んでいた)はずなのに、そこに立ち現れるものはまるで違う驚きと楽しさ。主題「死から問うあなたの人生の物語」という軸が効いている。パッケージにすることで焦点が絞られるということ。

 死について考えるときの補助線として、私はSEKAI NO OWARIの「不死鳥」がかなり強い影響を自分に与えていると思う。それ以上も、それ以外もなくない? と思うくらいの強烈な体験。2011年の夏。そうか「不死鳥」を私は2011年に聴いているのか(おそらく『INORI』に収録されていたやつを聴いている)。

 あとはアレックス・シアラーの『青空のむこう』や森絵都『カラフル』、ゲームのファイナルファンタジー10からもかなり影響を受けている。ああ、あと草彅剛・竹内結子の映画『黄泉がえり』なんかも実はあるかもしれない(その影響もあって、いまだにバスに乗るのが少し怖い。日常生活には支障がないが)。SFも死の問題を扱うのを得意としている。最近は800歳くらいまで生きられるようになった人類の話を読んだ(しかも老化しない!)。

 ということを書こうと思ったこの日、朝から仮面ライダーエグゼイドの第12話を観てしまい、ガッデム! と頭を抱える。第12話では九条貴利矢という人間が「ゲームオーバー」になり地上から消滅するという伝説の回なのだが(というのも、放送時間15分くらいまではクリスマスをテーマにした心温まる母と子の物語をやっていたので、唐突に訪れるライダーの「死」に視聴者としても困惑せざるを得ない)なるほど、私は九条貴利矢の消滅を受け入れることができるのかというと、まあ、別に仕方あるまいが(知りすぎた者は消されるの法則)自分が消えゆく存在なのだと悟った瞬間、九条貴利矢は何を思ったのだろう、ということを考えたらもう駄目だった。そういう方向に想像を膨らませるとまだまだ耐えられない。

 END展の中に「10分遺言」というのがある。文字通り10分で遺言を書く試みだ。インターネット上で寄せられた遺言を展示している。面白いのは、執筆のプロセスを記録してそれを再生するということ。書く際の逡巡やその逆で迸るように文字が繰り出される感じ、リズムが可視化されているのが面白い。

 デバイスがあれば誰でも書けると思うけど、私は書けなかった。それは、書くことがなかったから。書きたいと思う相手もいなかった。書くことがないというのは、仮にあと1時間後に死んだとして、そうしたらこのブログがそのまま私の遺言めいたものになるだろうし、リアルに関わっている相手に対しては日記などを差しだせるだろう。そもそも私が料理を作って差し出したところで(=遺言を作る)生きている人間は様々に解釈するし、解釈されたものは私の本意ではないだろう。だから料理を作るところからやってくれ、材料は与える(つまりメモは残す)という感じ。だから10分遺言は書けなかった。

 展示では様々な「遺言」が喋っていた。嫌な感覚ではないが見ていて気持ちが悪くなってくる。そんなに言いたいことがあれば伝えればいいのに。言いたいことがあるのに相手に伝えずこんなところで披露しているなんて馬鹿みたい! とちょっと思ってしまった。ごめんね。言いたいことがあっても言えないこと、そんなことたくさんあるってことは私もわかっているのだけど。

 

 END展をあとにして、多摩川の河川敷近くに降りて駅まで戻って帰路につく。

 

 川はいいね。