解体現場

 高床式のように二階部分が店舗で下は駐車場、そんなファミレスが閉店したのはいつだろう。ここ1年ほどのことだからやはりコロナ禍の影響は否定できない。結局その店に私が訪れることはなかった。

 交通量の多い道路沿いにあるそのファミレスは(正確には「ファミレスだったもの」)閉店するやいなや驚くスピードで朽ちていった。人の住まない家は老朽化がどんどん進んでいくという話を聞いたことがあるが、閉業した店も同じなのだろう。ガラスは曇り、階段部分が薄汚れ、淀んだ空気で覆われていた。この廃墟に幽霊が出るんですよね、という噂が立っても驚きはしなかった。

 大通り沿いの道、人は好んで歩かない。車以外の流れがない、そんな道を、私は時々ジョギングコースとして走って通り過ぎたり、帰宅の際の回り道で歩いたものだった。

 無性に気になった。歩道から店を見上げると、窓の奥にぼんやりと非常口を示す案内板の緑色が光って見えた(ような気がした)。真っ暗な店内に惹かれた。何か「本当のもの」がある気がした。そうだな、人はいつも何かしら装って生きているけども、その皮をべりべりと剥がした奥にあるものと同質の何かがその暗がりにはあるような気が下。営業していたときは特に休日の夜は人で賑わっていただろう。うわべの体裁の良い部分は、お客さんたちが持って行った。その跡には人々が持て余した何かが忘れられていった、というような。

 廃業から時間が経てば、おそらく時の流れが残滓も流していってくれただろうけれど、まだそれには及ばない。新しすぎる生々しい瘴気。

 と、そんなファミレスだが、今日通りかかると白いパネルで覆われていた。どうやら解体工事が始まるらしい。

 私は足を止める。パネルにちょこんと取り付けられた様々な許可証や解体工事の内訳みたいなものを読む。工事現場のそのような案内をしげしげと読む通行人を私は見たことがないが(そして私も今日まで実行したことはなかった)とにかく私は案内板を読んでいた。読む間、私以外の通行人はいなかった。

 解体の際にアスベストが出る可能性があるか検査した結果も貼られていた。そんなものがあるのかと驚いた。結果は問題なしとのこと。近隣には住宅もあるから、住んでいる人は結果に安心しただろう。

 私が次に通りかかるとき、ファミレスの建物は見る形もなく解体されるだろう。解体過程を見ることができなくてよかったと思う。建物が崩れていく様は、見ていて悲しいものがあるから。