空白

 何故こんなものを書いているのだろう。
 空しさよりライトな、ぼんやりとした空白が今日はやってきた。お互い暇なのだろうねと、とりあえず挨拶をしておいた。どうもこんにちは。

 それなら書かなくてもいいと思うけれど? そうね、でも、空白のことについて書いてしまえば、それは少なくとも「何もない」ということにはならない。私にとっての本当の空白はおそらく、書こうとすら思わないこと。
 にしても、まあ、よく書いていると思う。私よりたくさん書く人がいるし、私よりずっと心揺さぶる文章を書く人がいるけれど、一方でまったく文章を書かない人だってたくさんいる。
 何故書くのか。まだちゃんと説明できるとは思う。けれもかつて抱いていた思いは靴底のように擦り減ってしまっている。全自動式機械人形のような私。でも、悪くないと思っている。悪くない。
 履き古された靴。上等じゃないか。私は好き。たくさん書きこまれたノートはもっと好き。試行錯誤、五里霧中、雲水行脚。忘れてしまったのならば、空気に溶けてしまったのならば、思い出せばいいだけの話、それかまた作ればいいだけのこと。
 そんな空白の夜に、私は白い恋人の缶を机の下から取り出す。従弟が北海道土産にくれたものだ。爪でつつくとカンカンと乾いた赤銅色の音がする缶。この缶に今までに撮り溜めた写真を現像して入れている。
 去年の今頃の写真を一枚一枚見ていく。何も感じない。今日はそういう気分だからなのだけど。とてもニュートラルな気持ちだ。過去にも未来にも悲観しないし、楽観もしない、価値判断が真ん中の気分。寂しければきっと「こんな季節もあったわね」と思うだろうし、気分が高揚していれば「次は何をしようか」と思うはず。今日の私は、今この場所で氷のような気分なのだ。それが空白? そうね、空白なのかもね。

 さあて、何もない、どうしよう!と思ってパソコンに向かったけれど、781文字書けた。書けるじゃあないか。
 空白から始めよう。とりあえず喉が渇いた。これを書き終わったらコップ一杯の水を飲む。そして軽く歩いて今日は寝てしまおう。