クリアな思考

 化粧品メーカーのSK-Ⅱの綾瀬はるかのCMの「クリアな素肌」の発声が好きなのは私だけだろうか。ピテラエッセンスでクリアな素肌が得られるらしい。クリアな素肌、クリアな素肌、クリアな素肌。口の中で言葉を転がしてしまう。

 電気ケトルのスイッチを入れると、読みかけのサリンジャーの短編集をひらいた。長い長い手紙の途中である。書き手の少年の言葉は尽きることがない。淀みなく流れていくメッセージはいつの間にか読み手である読者の心を奪っていく。空行がない為、区切りがつけにくく、仕方ない、この段落まで読むか、と決めた箇所まで丁寧に読み進めていく。彼はキャンプ地から遠く離れた場所にいる家族に手紙を宛てているが、彼の両親はこの手紙をどのように読んだのだろう。読者は両親を追体験するような、そんな感じだ。

 ケトルのスイッチがパチンと鳴った。今日はここまでだ。サリンジャーをとじる。予めあけておいたカップ焼きそばにお湯を注いでいく。出来上がりの3分を待ちながら、私は先ほど読んでいたサリンジャーを指でなぞる。頭の中に蒸気がもうもうと広がっている気がする。クリアな素肌?ちがう。クリアな思考だ。頭の中の靄に「クリアな思考」という言葉が綾瀬はるかのトーンで反響していく。クリアな思考、クリアな思考、クリアな思考…。

 カップ焼きそばの麺を私は好んで食べるけれど、もそもそとした食感ともったりとした味はどう考えてもクリアではない。では食べているものが駄目なのか。それもあるだろうが、根本的な問題は他にある気がしている。色々と考え中だ。最近は「切り替え」のことについて考えている…。