プロセスチーズ

 レジ袋有料化は私たちの買い物を可視化する。

 コンビニに立ち寄る際の気儘さと、堅実なエコバッグは相反する。

 その結果、以前は不透明のビニール袋で秘されていた個人の買い物が白日の下に曝されるのだ、春。

 

 向こうから男がやってくる。私はその顔を見ることができない。案外自分は他人の顔を見ていないものだなと思うが、それよりも私の心を奪ったのは男が手に持っているプロセスチーズだった。卵といい、食パンといい、私たちは手に持ったまま帰ることができるのだと教えてくれたレジ袋有料化。

 スーパーで売られている精肉のパックを入れるような薄いビニール袋にプロセスチーズを入れて、男はこちらに向かって歩いてくる。青くて丸い円盤のような何か。おそらく雪印のプロセスチーズだろう。あとで調べたが、あの名前は6Pチーズというらしい。読み方は「ろっぴーちーず」だ。可愛いかよ。

 あのチーズの箱好きだったな。すれ違いざま、変な人に思われない程度にマスクに隠れて私は笑う。ニシシシシと。

 UFOが存在するならば、きっとこんな形をしてクルクルと旋回しながら飛んでいるのだろうと思っていた。幼稚園、あるいは小学校の図画工作の時間。おうちにある空き箱を持ってきましょう。私はポッキーの箱とかプリッツの箱を持っていった。私の家はプロセスチーズを食べなかったから、6Pチーズの箱は持っていくことができなかった。誰かが持ってきた円盤はかつての私の"憧れ"だった。かつての憧れは簡単に手に届くけれど、今は憧れでもなんでもない。あの時だからこその憧れの魔法は、もう魔力を失ってしまった。

 せめてもと、今日の帰りに6Pチーズを買って帰ろうと思った。でもチーズはそこまで好きでもないから、デザートチーズがあるといいなと思う。そしてチーズだからワインが合うだろう。小さめのワインなんかがあれば最高だ。そんなことを考えて、少し運動して、そうしたらクレープ屋を見つけてしまい、結局クレープを食べながら帰った。それが今の私の好きなものだから、仕方がないね。

 ま、今週のどこかのお楽しみにとっておこう。プロセスチーズと、ワイン。