サロメチール

 朝から肩甲骨が痛む。運動した翌日だから当然でしょう?と思っていたけれど、筋肉痛の痛みではないし(筋肉が痛むのならそれは「筋肉痛」では?と思ったものの、ハードな運動後のいわゆる「筋肉痛」の痛みではないのだった)じわじわ、じくじくと痛むのが不穏。何かが千切れたとか捻ったとかではないのだ、不安に思う必要もない。が、その痛みにどうも弱気になる私であった。だって痛いのだもの。台風が近づいてきて次第に強くなる風と雨、のような痛み。

 今日は人に会うこともないからかまわないだろう。堪らなくなって、私は溜息をつくと立ち上がり、引き出しから赤いチューブを取り出す。以前に買ったものだと思うけれど、年に1回使うか使わないかの使用頻度だからいつになっても減らない。私が死ぬ方がもしかしたら早いと思うくらい、サロメチール

 白い軟膏を塗る。血流をよくしてくれるのか、塗ったそばからポカポカと温かくなる。気がついたら痛みが消えていた。あまりに都合がよすぎて、私はふははははと笑う。

 合宿の匂いだなと思う。昔々、ハードに運動していたときには練習後にべたべたと塗りたくったものだ。ふくらはぎに、二の腕に、肩に、太腿に。湿布ともちがう、独特の刺激臭は私を過去に引き戻す。

 敷いたままの布団、ボストンバッグからこぼれる衣類、ハンガー、洗面道具、半分だけ食べて残り半分は未開封カロリーメイトが入った黄色い箱。熱っぽく、湿っぽい、五、六人で雑魚寝した畳敷きの部屋。

 

 遠いところにきたものだと思う。あまりに遠く、予想できない未来に、今、私は生きている。

 

 サロメチールという商品が今なお健在で、嬉しいと思った。