入院

 帰り道に歩いていると病院に出会った。

 既に診療時間は終わっていて、入り口の蛍光灯だけが煌々と光っていた。

 それなりに大きな病院で建物も大きい。目線を上に向けられると、等間隔に並べられた窓の多くはカーテンが閉められており、隙間から室内の灯りがぼんやりと滲んでいた。

 幼少期に入院したことがあり、その時のことを思い出す。といっても記憶から引き出せるのは、味がしない病院食の粥と、それに振りかけるごま塩と、抵抗したらしく術後は足に点滴をする羽目になりベッドに張り付け状態だったことぐらいだ。腕にしてもらえれば、点滴を吊るした移動式ポールを引き連れて病院を歩き回れただろうに。

 病院食が不味かった記憶は無くて、ただ薄味だった。売店で買ったのだろうか、私だけのごま塩の瓶を持てたことが嬉しくて、以来、ごま塩ふりかけが好きだ。

 窓一つひとつ、部屋にはベッドが置かれその上で誰かが眠っているのだろうか。

 歩き始めながら私は想像する。

 人にもよるだろうけれど、入院というのはとても孤独で、そして不安なものだ。閉め切られたカーテンは、外界からの孤絶を意味しているようで、少しだけ、気落ちする。私が落ち込むのは話がちがうけどね。

 誰かが何かから回復しようとしている。病院というのはそういうところだろう。ぼんやりとした街に比べればよほど生の気配。ペタペタとスリッパの乾いた音が鳴る廊下のイメージが目の前に広がる。

 と、ププーと大きなクラクション音が世界を切り裂き、思わず舌打ちをしてしまった。まったく、うるさいなあ。